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DBDPE(デカブロモジフェニルエタン)制限の動向

1.DBDPEとは
DBDPEとは、2つのフェニル基にそれぞれ5つの臭素が結合しており、2つのフェニル基がエチレン基(-CH2CH2-)で結合している物質です。ストックホルム条約(POPs条約)で廃絶物質とされたデカブロモジフェニルエーテルと名称と構造が似ていますが、デカブロモジフェニルエーテルはフェニル基間が酸素(-O-)で結合(エーテル結合)されています。DBDPEとデカブロモジフェニルエーテルはともに難燃効果が大きいとされるハロゲン系難燃剤として使用されており、DBDPEはデカブロモジフェニルエーテルの代替品の一つとして使用されてきた経緯があります。こうした状況の中、カナダは1999年のカナダ環境保護法(CEPA)の改正にて、DBDPEの制限案を公表しています(*1)。 
DBDPEの制限は、EUや米国などに先行するものであり、カナダ特有の事情から生まれたものでもあるため注目されるところです。今回はこのDBDPEの規制動向について取り上げていきます。

 

2.1999年のカナダ環境保護法(CEPA)の改正による制限案
2022年に公表された制限案では、POPs条約へ批准する措置とともに規制物質の一つとしてDBDPEおよびDBDPEを含む製品の製造、使用、販売、輸入を禁止するとしています。
DBDPEを規制する理由としては、カナダの環境とその生物多様性に悪影響を与える可能性があり、有毒であると結論付けられたことによります。DBDPEのスクリーニング評価では、環境またはその生物多様性に即時的または長期的な有害な影響を与えるまたは影響を与える可能性のある量または濃度で環境に存在している可能性があるとされ、CEPAの第64条(a)に基づく毒性基準を満たしたとしています。
長距離移動性を有するPOPsは北部地域に蓄積する傾向があるとされています。カナダは地理的に地球の北部にあるためPOPsの影響を受けやすいと考えており、特にカナダの先住民および北部のコミュニティは、伝統的な食品に依存する食事によるPOPs曝露のリスクが高くなることを懸念しています。制限案ではDBDPE以外にLC-PFCA、デクロランプラス(DP)の規制も導入しており、カナダはPOPsの性質が懸念される物質に関するリスク管理を先導していくということも表明しています。
なお、施行後に即時の適用を回避する手段として、最大3年間で発行されるDBDPEを含む製品の製造と輸入の継続を許可する許可証の取得が規定されています。ただし、許可証が発行されるためには、技術的または経済的に実現可能な代替手段がないこと、申請者が環境および人の健康に対する物質の有害な影響を最小限に抑えるための措置を講じることが必要となります。また、3年以内に提案された規則を遵守するために申請者が講じた措置を特定する計画が作成されている必要があります。

 

3.EU、米国、日本の状況
前述の通りDBDPEは、有害性が特定されているデカブロモジフェニルエーテルと分子構造が似ています。こうした懸念からEUでは、DBDPEについて2012年にCoRAPによる評価を実施しています(*2)。しかしながら、現状のDBDPEの物質評価カードを確認する限り、PBT判定は評価中であり、CLP規則に基づく調和分類および表示(CLH)も決定されていない状況です(*3)。
米国においては、DBDPEはTSCAインベントリーに収載されており、製造、輸入または加工の前に米国EPAへの通知を必要とする重要新規利用規則(SNUR)の対象となっています。ただし、DBDPEが樹脂に組み込まれている場合、SNURは適用されません。
 日本国内においては、カナダ以外の国・地域では同様な規制が実施または予定されていない状況や影響が電気電子製品、産業機械、自動車等、広範におよぶこと、現時点でDBDPEの代替材の開発・生産の可能性が見通せない状況である点を踏まえ、2023年版「不公正貿易報告書」において問題点の一つとして取り上げています(*4)。

 

4.まとめ
カナダは、自国の地域特性からPBT特性が懸念されるDBDPEについて世界各国に先行した制限案を公表していますが、カナダ以外の国との温度差が発生している状況となっています。デカブロモジフェニルエーテルの代替材の一つであるDBDPEが規制されると、産業界にとっての影響は大きいですが、現時点では地域ごとに異なる対応が必要となる可能性があり、企業の担当者においては悩ましい状況といえそうです。

 

引用先
(*1)
https://pollution-waste.canada.ca/environmental-protection-registry/regulations/view?Id=2175
(*2)
https://www.echa.europa.eu/web/guest/information-on-chemicals/evaluation/community-rolling-action-plan/corap-able/-/dislist/details/0b0236e1807e3287
(*3)
https://www.echa.europa.eu/substance-information/-/substanceinfo/100.076.669
(*4) https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230616003/20230616003-1.pdf
(一社)東京環境経営研究所)

​(2024年2月)

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