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欧州ELV指令見直しについて

1.ELV指令(*1)のこれまで
1990年代に各国で使用済み車両(ELV:End 0f Life Vehicle)の不法廃棄が社会問題化した。わが国では、「使用済み自動車の再資源化等に関する法律」(通称:自動車リサイクル法(*2))のもと、新車購入ユーザーに、リサイクル料金を課金し、その費用に基づき使用済み車両の処理を行っている。欧州では、使用済み車両処理を法的に担保するために、ELV指令(2000/53/EC)とリサイクル率を担保する3R指令(2005/64/EC)(*3)が規定された。ELV指令導入後、20年程度経過し、昨年見直し案に
ついて、意見募集が実施された。今年6月に欧州議会選挙があり、見直し議論は、新議会での作業となった。見直し案は、「指令」を「規則」とし、加盟国で同等レベルの法規執行となる見込みである。ここでは、提案されたELV規則(案)(*4)の概要を紹介する。

2.現行ELV指令の見直し
欧州での環境政策は、グリーンディール政策のもと温暖化ガス55%削減を目標とする政策パッケージ「Fit for 55(‘21/7)」(*5)と資源循環を目指す新循環型経済行動計画(‘20/3)(*6)が展開された。この様な中、2018年の廃棄物に関する枠組み指令(WFD指令)(*7)見直しの折、ELV指令の見直しについて勧告があった。背景には「廃棄
物処理」に基づく政策を「循環型経済」現実化にむけ、変更することである。これら動きの中、改正案は、前述のように、「規則」とし、3R指令を取り込んだ。
見直し案策定にあたり、当局は現行指令の課題を以下の六項目にまとめ提示した。①小型乗用・貨物のみを対象とし、大型・二輪車を含まないこと ②車両の設計・開
発において、リサイクル考慮設計やリサイクル材使用が進んでいないこと ③域内の解体処理業者の処理高度化が進んでいないこと ④自動車に使用される、貴金属や希土類元素の産出国が限られており「資源セキュリティ」の課題が顕在化してきたこと ⑤使用済み車両の1/3が行方不明になっていること ⑥自動車製造業者と回収・処理業者の連携がすすんでいないこと 

3.ELV規則(案)について
今回提案されたELV規則(案)は、9章の法文と11の付属書から構成されている。2,3章が主に車両開発に関係する規定。4章が使用済み車両の処理/管理で、主に
解体・処理事業者に関係する規定。5章では、新たに中古車に関係する規定が追加された。6~9章は各加盟国と法規執行に関係する規定である。先に述べたように、使用済み車両の1/3が行方不明なこともあり、「中古車」の通関管理の仕組みが、追加された。
大きな変更点を列挙すると、1章で対象車両を小型・大型乗用/貨物、二輪車と範囲を広げた。2章の「循環性の要求」、3章の「製造者の義務」は自動車メーカへの要
求事項である。2章では、従来の3R指令規定の「リサイクル認証」(4条)とELV指令による「有害物質非含有」管理(5条)が適用される。6条に再生樹脂使用規定が加えられ、「リサイクル樹脂を少なくとも25%含み、かつその25%はELVからリサイクルしたもの」とされた。将来的には樹脂材料だけでなく、アルミ等の金属材料、磁石用希土類についてもリサイクル要件が規定されることである。7条では、付属書VIIIパートCで定める部品/コンポーネント及びEV用電池/駆動モータについて解体性
を考慮した設計を求めている。3章の「製造者の義務」では、9条で「循環性戦略」の策定・提出、10条では、型式取得時における、「リサイクル材使用状況」についての宣言、11条では、車両解体に関わる情報提供義務、12条では特定部品へのラベル貼付義務と駆動用モータ磁石に関する情報開示が規定化された。最後の13条では、付属書に示される、環境・解体性情報をまとめて「循環性車両パスポート」として貼付することが規定された。4章の「使用済み車両の管理」では、解体・処理事業者の認定制度等が導入され、車両のトレーサビリティ向上が図られた。自動車製造者と解体・処理業者の連係のために、自動車製造者により一層の「拡大生産者責任」を求めており、自動車製造者の「使用済み車両の引き取り処理」に対する財政的拠出を求める規定がある。5章では「中古車」に関して、域外輸出の管理とEU加盟国税関当局間での情報交換等が定められ、中古輸出車両のトレーサビリティ確保を厳密に実施するとした。

4.最後に
本ELV規則(案)は、今年後半の新議会で立法化議論が進められる見込みである。ELV規則(案)については、「当局」「自動車業界」「解体・処理事業者」で意見が
異なる部分もあり、今後、議論が進められる。ただ、当局の資源循環政策の中、多資源消費製品である自動車については、より実効的なリサイクルが求められると推定され、他製品の資源循環政策導入のひな形として、動向には注意が必要と思われる。

*1) ELV指令
https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/end-life-vehicles_en
*2) 自動車リサイクル法とは(経産省)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/automobile_recycle/about/recycle/recycle.html
*3)3R指令
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32005L0064
*4) ELV規則(案)
https://environment.ec.europa.eu/publications/proposal-regulation-circularity-requirements-vehicle-design-and-management-end-life-vehicles_en
*5) Fit for 55
https://www.consilium.europa.eu/en/policies/green-deal/fit-for-55/
*6)  新循環型経済行動計画
https://environment.ec.europa.eu/strategy/circular-economy-action-plan_en
*7)  廃棄物に関する枠組み指令
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32008L0098

(2024年9月)
 

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