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EUの新たな環境政策の動き

【1. EUの新たな環境政策の動き】
2024年は主要国の議会選挙による政権交代、首相交代など大きな変化があり、環境政策も変化が起きています。
 EU理事会はEU議会選挙の結果を考慮し、また協議を行なったうえで、EU議会に対してEU委員長候補を提案します。委員長候補は欧州議会によって、その構成員の多数でもって選出されます。
 EUは、2024年6月のEU議会選挙で勢力分野が変わりましたが、第14代EU委員長にウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン(Ursula Gertrud von der Leyen)(以下ライエン委員長と略記)氏が継続して、第15代EU委員長に12月1日に就任しました。
 ライエン委員長の第1期(2019年~2024年)政策を第2期(2024年~2029年)も継続するとしていますが、EU議会での自国主義の会派が議席を増やしており、政策も微妙な変化は出てくると思います。

1.基本政策(2024-2029)
EU理事会による基本戦略となる「戦略アジェンダ2024-2029」(the strategic agenda 2024-2029)(*1)が、2023年10月6日にスペインのグラナダで開催された非公式のEU理事会で審議されました。その後、EU首脳は今後のEUの方向性と目標について定期的に議論し、「戦略アジェンダ2024-2029」が2024年6月27日に採択されました。
環境政策に関連する事項は次です。
(i)自由で民主的なヨーロッパ“A free and democratic Europe“
(ii)強くて安全なヨーロッパ“A strong and secure Europe”
(iii)繁栄し競争力のあるヨーロッパ“A prosperous and competitive Europe”
-グリーンとデジタルの移行を成功させる
-2050 年までに気候中立を達成するまでの過程で、現実的に行動し、グリーンとデジタルの移行の可能性を活用し、将来の市場、産業、質の高い雇用を創出する。
-安定的で予測可能な枠組みを提供し、ネットゼロの技術と製品に対する製造能力を拡大するためのより支援的な環境を作る。
-国際的な競争力を維持し、エネルギー主権を高めることを目的として、公正かつ公平な気候変動への移行を追求する。
-より循環的で資源効率の高い経済を開発し、クリーンテクノロジーの産業開発を推進し、バイオエコノミーのメリットを最大限に活用し、適切なネットワークインフラを備えたクリーンでスマートなモビリティを採用する。
-自然を保護し、海洋を含む生態系の劣化を逆転させ続ける。
-EU 全体で水の回復力を強化する。


2024年7月18日にEU理事会から推薦を受けたライエン委員長(候補)が、EU議会で「戦略アジェンダ2024-2029」を具体化した「欧州の選択 2024-2029年次期EU委員会の政治指針」(EUROPE’S CHOICE POLITICAL GUIDELINESFOR THE NEXT EUROPEAN COMMISSION 2024-2029)(*2)を発表しました。
 環境施策に関わる以下の見解を示しています。
・安全保障から気候変動、競争力に至るまで、私たちの時代の最大の課題は共同行動によってのみ解決できます。私たちの脅威は個別に対処するには大きすぎます。
・このような背景から、ヨーロッパが最善の選択肢、つまり連合を選択しなければならないと信じています。
・ヨーロッパが再び団結して前進するときが来ています。
・過去 5 年間、グリーンディールから 次世代EU、移民と庇護に関する協定、EU社会権の柱の実施まで、私たちは共に多くのことを達成してきました。EUグリーンディールに定められた目標を含め、すべての目標を順守しなければなりませんし、今後もそうしていきます。
・2030 年以降に向けた一連の集中的かつ共同の目標を定義し、これらの優先分野に明確な目標と成果を持たせたいと考えています。
-防衛と安全保障
-持続可能な繁栄と競争力
-民主主義と社会的公正
-世界をリードし、ヨーロッパで成果を上げる。

第2期ライエン委員長は、2024年から2029年、そしてそれ以降の野心的な目標を設定し、7つの主要な優先事項(*3)を示しました。
(i)欧州の持続可能な繁栄と競争力のための新たな計画
(ii)欧州の防衛と安全保障の新時代
(iii)人々を支え、社会と社会モデルを強化する
(iv)私たちの生活の質の維持:食料安全保障、水、自然
(v)私たちの民主主義を守り、私たちの価値観を守る
(vi)グローバルなヨーロッパ:私たちの力とパートナーシップの活用
(vii)共に行動し、未来に向けた連合の準備

2. より循環的で回復力のある経済
 優先取組施策の「欧州の持続可能な繁栄と競争力のための新たな計画」(*4)では、以下の事項を目標としています。
(i)ビジネスをより簡単に:経済成長を促進する
(ii)クリーンな産業協定:EUの競争力のある産業を支援し、質の高い雇用を創出する
(iii)より循環的で回復力のある経済:より持続可能な生産と消費の慣行への移行
(iv)デジタル技術の普及による生産性の向上:EUの競争力を強化し、AIイノベーションのリーダーとする
(v)研究と革新:経済の中心とする
(vi)投資の加速:環境、デジタル、社会の移行を加速する
(vii)スキルと労働力の不足に取り組み:人々のキャリアと経済競争力を向上させる
 
 「より循環的で回復力のある経済」(*5)で、より持続可能な生産と消費のパターンに移行し、経済における資源の価値をより長く維持するために、次項などを行うことを宣言しています。
-新しい循環経済法(Circular Economy Act)を通じて、二次材料の市場需要と廃棄物の単一市場の創設を支援する。
-新たな化学産業パッケージを提唱し、「永遠の化学物質」すなわちPFASを明確にする。
その他、医療、医薬品関連についても言及しています。

3.EU議会の状況
 EU委員会の方針のREACH規則の改正やPFASの明確化は、EU議会で審議(*6)されています。
 「持続可能性のための化学品戦略」についても、協調(*7)しています。
 EU委員会とEU議会は、化学物質の存在を防止するための法的枠組みに改善を求める行動計画を要求しました。特に、繊維製品、家具、子供用製品、吸収性衛生製品など、消費者が頻繁に接触する製品に優先的に取り組むことが提案されました。この計画では、「1物質-1危険有害性評価」(1物質-1評価)原則の採用や、完全に連結された相互運用可能なEU化学物質安全性データベースの構築も支持されました。EU議会はさらに、生殖毒性物質を労働における発がん性物質や変異原性物質に含めるための立法案の提示を要求しました。また、難分解性・生物蓄積性・毒性物質、超難分解性・超生物蓄積性物質、難分解性・移動性物質に対処する明確な行動計画の提示や、必要に応じて立法案の提出、化学農薬の使用とそれに伴うリスクの大幅な削減の具体的な目標の設定を求めました。最後に、内分泌かく乱物質に関する包括的なEUの枠組みの確立も再確認されました。
 1物質-1評価について、EU委員会は2023年12月7日にEUの法律全体で化学物質の評価を合理化するための1物質-1評価」のベースとなる3つの立法案(パッケージ)(*8)を採択しました。
・化学品に関する共通データプラットフォームを設置する規則の提案
・化学品分野における科学的・技術的課題の再帰属化とEU機関間の協力の改善に関する規則の提案
・EU化学機関への科学的および技術的タスクの再帰属に関する指令の提案
 この中には、RoHS指令の見直しに関する報告書(*9)も含まれています。

 これらは、EU議会も賛同している内容であり、具体化が確実視されます。

4.アメリカの動き
 アメリカは2025年1月20日にTrump2.0がスタートします。環境政策が変化すると情報が流れています。
 環境政策は共和党の選挙のマニフェスト“Project-2025”(*10)の13章にEPAに関する事項が記述されています。
 “Project-2025”はトランプ次期大統領が直接記述に参加していなく、拘束されないとの発言もありますが、ネットニュースなどは“Project-2025”を引用しているようです。
 新たな情報では、国家環境政策法(NEPA)(*11)の運用基準を変えて、環境規制が変わるというものです。NEPAは、環境保護のための広範な国家的枠組みを確立する最初の法律の1つでした。NEPAの基本方針は、環境に重大な影響を与える主要な連邦政府の行動に着手する前に、政府のすべての部門が環境に適切な配慮を払うことを保証するもので、EPAが環境政策に大きな影響力を与えていた根拠法です。NEPAの評価基準の「合理的に予見可能な環境への悪影響」が見直しされるというものです。

 2024年はEU、アメリカの政策が変化しました。政策は相互に影響しあい、変化も出てくると思われます。2025年は新政策を受けた製品規制施策の変化が見込まれ、実務者にとっては、気に抜けない年になりそうです。

 (一社)東京環境経営研究所

引用
*1:戦略アジェンダ2024-2029
https://www.consilium.europa.eu/media/4aldqfl2/2024_557_new-strategic-agenda.pdf
*2:欧州の選択 2024-2029年次期EU委員会の政治指針
https://commission.europa.eu/document/download/e6cd4328-673c-4e7a-8683-f63ffb2cf648_en?filename=Political%20Guidelines%202024-2029_EN.pdf
*3:7つの主要な優先事項
https://commission.europa.eu/priorities-2024-2029_en
*4:欧州の持続可能な繁栄と競争力のための新たな計画
https://commission.europa.eu/priorities-2024-2029/competitiveness_en
*5:より循環的で回復力のある経済
https://commission.europa.eu/priorities-2024-2029/competitiveness_en
*6:REACH規則の改正やPFASの明確化の審議
https://www.europarl.europa.eu/legislative-train/theme-a-new-plan-for-europe-s-sustainable-prosperity-and-competitiveness/file-reach-revision
*7:持続可能性のための化学品戦略の議会の協調
https://www.europarl.europa.eu/legislative-train/theme-a-european-green-deal/file-chemicals-strategy
*8:1物質-1評価立法案パッケージ
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_6413
*9:RoHS指令の見直しに関する報告書
https://environment.ec.europa.eu/publications/report-review-directive-restriction-use-certain-hazardous-substances-electrical-and-electronic_en
10:Project-2025
https://s3.documentcloud.org/documents/24804857/project-2025.pdf
*11:国家環境政策法(NEPA)
https://www.epa.gov/laws-regulations/summary-national-environmental-policy-act
 

(2025年1月)
 

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