【かていチャレンジ(1)】
「〇どもちゃれんじ」としたかったのですがさすがに著作権があるので「かてい(家庭)チャレンジ」にしてみました。Web検索してもヒットしないのでたぶんだいじょうぶ。
さてこの新企画、ですらないお試しコーナーですが、withコロナと言われる時代に低ストレスで生きるためのリスクリテラシーを、社会の最小構成要素である家庭から始められないか、という大胆な野望をもって手探りしています。
在宅勤務が増え家庭でのふれあい時間が増えているときに、低リスク・低ストレスに生きる知恵のヒントのきっかけのひとつの手がかりのはじめの一歩になれば、という思いでございます。化学物質管理検定のネタに詰まったという訳ではなく、筆者の気分転換です。ネタ切れじゃないです本当です。ほんとですってば。
[このゲームの遊び方]毎回リスクシナリオをお送りします。最もハザードが高いプロセスを指摘して、そのハザードの低減策もしくは顕在化防止策を提示した人が勝ち。低減策もしくは防止策が不適切だったらノーカウント。登場人物としての立場ではなく、リスクシナリオを俯瞰的に見ている演出家または観客の立場でお楽しみください。
なお、お送りするリスクシナリオはあくまで仮定のものであり(だから「かてい」チャレンジ)、実在する個人・団体とは無関係です。
[家族構成]妻:40代、夫:40代後半、長女:10歳、愛犬:柴犬メス3歳
[初期条件]妻は化学科卒で食品メーカー研究所勤務、夫は経済学部卒で電機メーカー総務課勤務、長女は私立小学校4年生。柴犬の名前は「きなこ」。
[今日のリスクシナリオ]
(1) 連休前の平日午後5時、晴天。自宅でテレワーク勤務の夫が夕食の準備を始めていると犬の散歩から帰った長女が今日のメニューを尋ねるが、不満な様子。
(2)「じゃあガトーショコラもつける」と言ってしまい一気に夫の負荷が上がる。
(3) 夫はガトーショコラの生地づくりに取り掛かる。鍋でお湯を沸かして包丁で刻んだミルクチョコレートを有塩バターと一緒に湯煎する。
(4) ボウルに卵を割り、ホイッパーで溶きながら砂糖(白糖)を溶かした。
(5)湯煎したチョコレートとバターをよく混ぜてから(4)を少しずつ入れてホイッパーで混ぜて乳化させた。
(6) ここに薄力粉をふるわずに入れてホイッパーでしっかり混ぜた。
(7) (6)を型に入れて180℃に予熱したオーブンで30分焼き、粗熱を取る。せっかくなので粉糖でデコレーション。
(8) 6時ごろ妻が帰宅し夕食。
(9) 夕食後、長女が楽しみにしていたガトーショコラを食べる。ところが、
(10) 「甘いんだかしょっぱいんだか変な味。硬いし」と長女。「もういい。きなこにあげる」と、一口だけ食べた残りを全部きなこに食べさせた。きなこ大喜び。
(11) 4時間後、「きなこの様子がおかしくない?」と妻。やがてきなこは吐いてぐったりしてしまった。泣き出す長女。妻は激怒。もちろん愛犬を危険な状態に陥らせそのために長女を泣かせる原因を作った夫に対して、である。
(12) 慌ててきなこを獣医に連れて行くと、深夜にも関わらず診てくれた医師から「犬にチョコレートは毒ですよ」と叱られた。きなこは無事回復し、夫の面目は失墜。
[設問1]管理対象のリスクを一つ特定してください。(例:長女の機嫌、犬の健康、妻の機嫌、夫の勤務評定、など)
[設問2](1)~(12)のプロセスを、前問で設定したリスクについて高ハザード、低ハザード、対象外に分類してください。有塩バター使用や薄力粉をふるわない、といった技術的な間違いは、ストーリー展開上必要なため適用除外(exemptions)とさ
せていただきます(expires on 30th Jun.)。
[設問3]前問で指摘したプロセスについて、ハザードの低減策または顕在化防止策を提示してください。
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【かていチャレンジ(1)の解答例】
対策の一例です。管理対象となるハザードと状況によってリスク対策は様々なので、あくまで一例です。
[管理対象]愛犬の命に関わることですが、ゲームなので長女の機嫌とします。
[ハザードの分類と顕在化するペリル]
・高ハザード:
(10):愛犬のチョコレート中毒発症により長女が泣く。
(2):愛犬がチョコレートを摂取する機会を作りその結果長女が泣く。
・低ハザード:
(1):長女の好みを無視したために長女が不機嫌になる。
(9):しょっぱくて硬いガトーショコラを長女に食べさせたため、長女が不機嫌にな
る。
・適用除外(exemptions):(3)、(6)
・対象外:その他残り
[最も高いハザードに対するリスク対策]
(10) どんなに欲しがっても、犬にチョコレートはダメ、絶対。ペットと暮らす人
は、種によって代謝が違うことを念頭に、何が毒なのか普段から把握していなければ
いけません。欲しがっても貰えないと、普段から犬に教えておくことも大切です。
この項目は犬の生命に関わることですが、犬が健康なら長女もご機嫌、という観点か
ら挙げています。
その他のプロセスに対するリスク対策はjemaiホームページで公開予定です。
https://www.jemai.or.jp/chemicals/MailMagagineBackNumber.html
【かていチャレンジ(2)】
[このゲームの遊び方]お送りするリスクシナリオについて、最も高ハザードなプロセスを指摘してそのリスク対策を提示した人が勝ち。リスク対策が不適切だったらノーカウント。
なお、リスクシナリオは仮定のものであり、実在する個人・団体とは一切無関係です。
[家族構成]妻:40代、夫:40代後半、長女:10歳、愛犬:柴犬メス3歳
[初期条件]妻は化学科卒で食品メーカー研究所勤務、夫は経済学部卒で電機メーカー総務課勤務、長女は私立小学校4年生。柴犬の名前は「きなこ」。
[今日のリスクシナリオ]
(1) 初夏というのに庭の花が冬のまま。当然枯れている。汚名払拭のため夏の花に植え替えようと、夫は日曜日に一人でホームセンターに出かけた。
(2) 花のことは知らないが、マーケティングの一般論としてこの時期の売れ筋商品が並んでいるはず。売れ筋なら妻と長女の高評価を取れるぞ、と皮算用。
(3)プラスチック製植木鉢に入った涼しげな水色の花があった。イソトマというその花を2鉢手に取る。
(4) 売り場にいたスタッフに「これは根を切って分割して植えても大丈夫ですか」と聞くと、スタッフは奇妙な表情を浮かべて「根は切らない方がいいですよ」とアドバイス。スタッフの表情が気になったが、それならと4鉢購入。
(5) 玄関アプローチの土を掘り、イソトマ4鉢を定植。これはいけるぞとご満悦。
(6)長女は既にきなこの散歩を終えていたので、長女もきなこもイソトマがあることを知らない。妻はアイロンがけが忙しくて玄関を見ていない。明日驚かせてやろうとほくそ笑む夫。
(以下はリスク対策対象外(exclusions))
翌朝、玄関を出た妻によりイソトマ発覚。イソトマの毒性を調べて即時撤去するよう妻に言われた夫はWebで検索し、イソトマにはアルカロイド系の毒があり、過去に小学校で児童が目の痛みを訴えたという報道を発見した。また、イソトマにはヒッポブロマという別名があり、語源は「馬が倒れる」だそうな。きなこは腹の具合が悪くなると庭の草を食べて整腸することがあるのを思い出した。イソトマの汁が付いた手で長女が眼をこすったら危険かもしれない。しくしくとうつむきながら全部抜いて処分した。花にもかわいそうなことをしたと、さらに罪悪感に押しつぶされていく。
[設問1]管理対象のハザードを一つ特定してください。(例:愛犬の健康、長女の健康、妻の機嫌、など)
[設問2](1)~(6)のプロセスを、設問1で特定したハザードについて高ハザード、低ハザード、対象外に分類してください。
[設問3]前問で指摘した最も高ハザードなプロセスについて、リスク対策を提示してください。
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【かていチャレンジ(2)の解答例】
先月号のリスク対策の一例です。管理対象と状況よってリスクマネジメントのやり方は様々ですので、固定された正解はありません。このゲームの遊び方の一例とお考えください。
[管理対象のハザード]愛犬の命の危険。
[ハザードの分類と顕在化するペリル]
・高ハザード:
(3):対象物に関する知識もないのに愛犬に有害なものを選択し、愛犬の命を危険にさらす。いえ、イソトマは夏らしい涼しげな花なので、リスクを管理できるならお勧めです。くれぐれも汁には触らないように。
(4):スタッフのヒントを見逃して愛犬に害があるかもしれないものを家に持ち帰ってしまい、愛犬の命を危険にさらす。
(5):愛犬に有害なものを家に定植し、愛犬の命を危険にさらす。人間の大人だけなら有害ということもないと思いますけどね。これが有害なら(目についた草木を片っぱしから口に入れる習慣があるのなら)、アジサイとかスズランとかカロライナジャスミンとかも有害ということになります。
・低ハザード:
(1):知識がないのに、アドバイスしてくれそうな人(妻ですな)に無断でこっそりやってしまい、危険性についての判断を怠る。
(2):妻と長女からの評価だけを考え、愛犬の命に関わるリスクを無視する。
(6):リスクが不明なものを家に定植したにも関わらず、家人に確認せずそのためリスク評価と注意喚起の機会を逃す。
・対象外:その他残り
[高ハザードの低減策もしくは顕在化防止策]
(3):アジサイやクリスマスローズの葉ならリスクは低い(毒性の点ではなく摂取する可能性において)でしょうが、イソトマの葉は食べやすそうな形と大きさをしています。馬が食べたという逸話が残っているくらいですから。最悪愛犬が食べるかもしれないことを考慮し、毒性が十分に低いものを調べて選択するべきでした。
その他のプロセスに対するリスク対策はjemaiホームページで公開予定です。
https://www.jemai.or.jp/chemicals/MailMagagineBackNumber.html
【かていチャレンジ(3)】
[このゲームの遊び方]お送りするリスクシナリオのうち最もハザードが高いプロセスを指摘してリスク対策を提示した人が勝ち。リスク対策が不適切だったらノーカウント。
なお、お送りするリスクシナリオはあくまで仮定のものであり、実在する個人・団体・製品とは全くの無関係です。
[家族構成]妻:40代、夫:40代後半、長女:10歳、愛犬:柴犬メス3歳
[初期条件]妻は化学科卒で食品メーカー研究所勤務、夫は経済学部卒で電機メーカー総務課勤務、長女は私立小学校4年生。柴犬の名前は「きなこ」。
[今日のリスクシナリオ]
(1)休日の午後。風呂掃除をして点数稼ぎをもくろむ夫。Webで調べてクエン酸で水垢を落とせることを知ったので台所からクエン酸を探し出す。
(2) ついでにカビ落としもやっておこうと、まず塩素系漂白剤スプレーを、窓を閉め切ったままの浴室の床と壁に撒いて30分放置した。
(3)シャワーで漂白剤をざっと洗い流し、すかさずクエン酸溶液をスプレーで浴室の壁と床にまんべんなく撒いて30分放置。普段から換気扇を使う習慣がない夫は窓を開けて換気。
(4)30分後、浴室の壁と床をスポンジで拭く。10分後、眼と喉になにやら痛みを感じる。変だなと思いながらも水垢が取れるのが面白くなってさらに続ける。
(5)やがて眼と喉の痛みが冗談じゃない痛さになってきた。さすがにこれはおかしいと廊下に避難。
(6) そのとき妻が買い物から帰ってきて、廊下でくたばりそうな夫を発見。「どうしたの!」と安否確認。
(7) 浴室の匂いと「水アカ・・・クエン酸で・・・」という夫の一言から妻は全てを理解し、浴室の窓を閉めたまま浴室換気扇を最強で回した。
(8) 「立てる?」と聞くと「大丈夫」と夫は弱々しく応える。妻は居間の窓を全開して通気を確保して夫を床に転がすと、じゃなくて横にさせると経過観察した。
(9) 顔色も変わらないので大丈夫そうだったが念のため呼吸器科を受診させた。
(以下は対象外項目)
状況を聞いた医師は処置後「カビ取り洗剤に「混ぜるな危険」って書いてませんでした?」とやんわり聞く。「書いてありましたけど酸性洗剤と混ぜていないので大丈夫だと思いました。」医師と顔を見合わせる妻。「あとで説明しておきます」と医師に詫びる。(なんで私が謝んなきゃいけないのよっ)と思ったが顔には出さない。
自宅で経過観察したが、現在に至るも肺水腫の発症はない。
[設問1]管理対象のハザードを一つ特定してください。(例:浴室の清潔、妻の機嫌、夫の健康、など)
[設問2](1)~(9)のプロセスを、前問で設定したハザードについて高ハザード、低ハザード、対象外に分類してください。
[設問3]前問で指摘した最も高ハザードなプロセスについて、リスク対策を提示してください。
おなじみの「混ぜるな危険」ネタです。家庭での中毒事例が厚生労働省から報告されています。気を付けましょう。
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【かていチャレンジ(3)の解答例】
先月の回答例をお送りします。どんなハザードを管理対象とするかによってリスクマネジメントのやり方は様々ですので、正解というものはありません。
「かていチャレンジ」の遊び方の一例とお考えください。
[先月号のおさらい]
(1) 夫はクエン酸で風呂場の水垢掃除をして点数稼ぎをもくろむ。
(2) ついでにカビ落としの塩素系漂白剤スプレーを浴室に撒いた。
(3) シャワーで漂白剤をざっと洗い流し、すかさずクエン酸溶液をスプレーで浴室に撒いて30分放置。
(4) 浴室の壁と床をこすって10分ほど経つとなにやら眼と喉に痛みを感じるが、掃除を続行。
(5) やがて眼と喉の痛みが冗談じゃない痛さになり、廊下に避難。
(6) 帰宅した妻がくたばりそうな夫を廊下で発見。
(7) 浴室の匂いと夫の一言から全てを理解した妻は浴室換気扇を最強で回した。
(8) 妻は居間の窓を全開にして通気を確保し、夫を床で横にして経過観察した。
(9) 大事はなさそうだったが念のため呼吸器科を受診させた。
[管理対象のハザード]夫の健康
[ハザードの分類と顕在化するペリル]
・高ハザード:
(3):洗浄不十分な塩素系漂白剤に酸を添加して塩素ガス発生を招く。混ぜたら危険なものが混ざるように使うなど言語道断。フールプルーフができていない工程を稼働させるのは危険です。
(4):塩素ガスが発生している可能性の高い場所で作業を続け、中毒を招く。眼と喉に痛みを感じた時点で退去しなければなりません。工場だったらこの時点で医師の診断を受けるでしょう。
(5):肺水腫発症の恐れがあります。直ちに医師の診断を受けましょう。
・低ハザード:
(2):工程管理と安全管理が十分なら同日にクエン酸処理と塩素系漂白剤処理を実施しても大丈夫でしょうが、管理能力が不十分な人がそんな危険なことをやってはいけません。
(8):肺水腫が疑われるなら直ちに医師の診察を受けさせなければなりません。床に転がす暇があったら、直ちに病院送りにすべきです。いや、この言い方は誤解を招くな。
・対象外:その他残り
[ハザードの低減策もしくは顕在化防止策]
(3):成果を欲張らずに安全を優先して、水垢取りとカビ取りは別の日に実施しましょう。有毒ガス発生の可能性があれば、換気扇で十分に換気してセンサー(この場合は鼻)で安全確認しましょう。
【かていチャレンジ(お知らせ)】」
ストーリー展開の必要上から夫のリスクリテラシーを極端に低く設定したため、野生なら3日と生きられないキャラになってしまいました。この調子ではいずれ筆が滑って重篤な状態に陥りそうです。仮定のキャラとはいえそれは不憫なので、この連載はメルマガではお休みし、JEMAIホームページ(準備中)で養生しつつ続けていこうと思います。
https://www.jemai.or.jp/chemicals/MailMagagineBackNumber.html