使い捨てプラスチック規制の潮流
1.はじめに
プラスチックは軽量、電気的絶縁性、低コストで大量生産が可能等の多くの利点から、様々な民生用或いは産業用に供されてきた反面、コスト的な問題からリサイクルが進まず、大量の廃棄物となり、その多くが埋立て或いは海洋へ投棄されてきました。
またこれらのプラスチック廃棄物は、川や海洋に流されていく過程で粒径数ミリ以下に粉砕されてマイクロプラスチックとなり、海洋生物への取り込みや、大気や飲料水への拡散、混入により、人間の健康にもリスクを及ぼします。また廃棄されずに焼却処分されるものもかなりあり、この際の大量の二酸化炭素の発生は温室効果を増加させています。
このためプラスチックそのものの製造・使用の削減が喫緊の課題となっています。
特に海洋ゴミ中に占める使い捨てプラスチック製品(single-use plastic:以下SUP製品)の占める割合は非常に大きく*、近年それに対する法規制が整備されてきていますので、本稿では欧州におけるその動向を中心に採りあげます。
*後述のDirective (EU)2019/904 1) の前文では、EUの海洋ゴミの80~85%はプラスチックであり、うち50%がSUP製品によるものであると述べています。なおSUP製品とは、全体あるいはその一部がプラスチックより成り、一般的には廃棄前に1回のみ、或いは短期間のみ使用されることを意図されたもの、と定義されます。
2.EUにおけるSUP製品規制の動き
EUでは、深刻化する環境問題と経済成長とを両立させるために、製品のリサイクル、再使用の拡大や省エネの推進による温室効果ガス発生の低減を実現する循環型経済政策に関する検討がなされてきました。
2015年12月、欧州委員会(European Commission:以下EC)はCircular Economy Package 2) を採択しました。これは欧州の産業競争力を高め、持続可能な経済成長を促進し、新たな雇用を創出しようとするための循環型経済への行動計画や廃棄物関連法令の改正について示したものですが、その中で重要なアクションの1つとしてプラスチックの抱えるリサイクル性、生物分解性、含有有害物質等の課題への取組みが挙げられました。そのプラスチック関連課題解決への戦略を具体化したものとして、2018年1月、ECはEUプラスチック戦略(A European strategy for plastics in a circular economy)を採択しました。3)
これは5節および3附属書より成り、2030年までにEU市場の全てのプラスチック容器包装(EUではプラスチックの約40%が容器包装用途)のリサイクルの実現、そのためのプラスチックリサイクル能力の4倍増強、それによる20万人の新規雇用創出等をポイントとした戦略を提示しています。またこれらの実現のための行動項目とその時系列的計画を示していますが、SUP製品の削減のためのアクションについては、新たな法的措置による対象範囲を検討するとしています。その結果、翌2019年6月、特定種類のプラスチック製品の環境負荷低減に関する欧州議会および理事会指令(EU)2019/904が公布、同年7月に施行され、EU加盟各国には本指令内容を国内法により2021年7月3日までに施行することが求められました。1)
これは全19条および附属書より成り、特定種類のSUP製品、オキソ分解性プラスチック製品、およびプラスチックを組み込まれた漁具を対象としています。
主要な内容は以下です:
(1)飲料用カップおよび食品容器については、増加傾向にある消費量を2026年には2022年に比較して相当程度逆転させる。
(2)カトラリー(フォーク、ナイフ、スプーン、箸等)、皿、ストローおよび綿棒等、指定の計9種のSUP製品およびオキソ分解性プラスチック製品については、2021年7月3日より上市を禁止する。
(3)容量3リットル以下の飲料ボトルについては、PETボトルでは2025年までに25%以上、全てのボトルでは2030年までに30%以上の再生プラスチックを各々使用する。
(4)容量3リットル以下のSUP製飲料ボトルについては、分別回収を行い、回収率を2025年までに77%、2029年までに90%とする。
(5)衛生用品、ウエットティッシュ等、指定の計4種のSUP製品については、2021年7月3日より上市時には、製品の適切な廃棄法や廃棄による環境への影響等について、視認可能で読み易く、消え難い表示をその包装或いは製品上に施す。(6)食品容器、飲料容器等、指定のSUP製品の生産者は、拡大生産者責任として「汚染者負担原則」により、廃棄物収集及びそれらの清掃、SUP製品に関する消費者への注意喚起その他にかかるコストを負担する。
(7)EU加盟各国は毎年規制対象SUP製品の上市量、消費後廃棄量、プラスチックを組み込んだ漁具等に関するデータをECへ報告する。
3.日本での取り組み
SUP製品の規制は、EU以外の多くの国々でも取り組まれています。
日本では2019年5月に制定された「プラスチック資源循環戦略」4) に基づいた措置として、容器包装リサイクル法の関係省令改正5)により2020年7月よりプラスチック製買物袋の有料化が行われました。これはレジ袋の辞退者やエコバッグの使用者の大幅増という大きな効果が得られました。これに続いてプラスチック資源循環法6)が昨年6月に公布、本年6月に施行されました。この中で事業者は、食器類等、これまで無償であったSUP製品(特定プラスチック製品)の提供有償化等の工夫が求められることになりました。
4.おわりに
廃棄プラスチックによる環境汚染対策を目的としたSUP製品への法規制は、各国ともその実効果の検証はこれからです。欧州の指令(EU)2019/904では、前記のEU加盟各国からの毎年の状況報告の他、2027年
7月3日までにレビューが実施されることになっています。引き続きその取組み状況と効果には注意していきたいと思います。
引用先
1)https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/904/oj
2)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_15_6203
3)https://ec.europa.eu/environment/circular-economy/pdf/plastics-strategy-brochure.pdf
4)https://www.env.go.jp/content/900513722.pdf
5)https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191227003/20191227003-1.pdf
6)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=503AC0000000060
(情報提供)(一社)東京環境経営研究所
(2022年12月)