プラスチック規制の潮流
【1.プラスチック規制の潮流(日本の規制の潮流)】
プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(プラスチック条約)の策定に向けた第3回政府間交渉委員会(INC:Intergovernmental Negotiating Committee)がケニア共和国のナイロビにおいて2023年11月13日から11月19日まで開催されました。INCは、2022年11月に第1回が開催され、プラスチックの持続可能な生産と消費の促進、プラスチック汚染を削減するための国内外の協調的取り組みの促進、国別行動計画の策定等が検討されています。2023年9月には、国連環境計画(UNEP)からプラスチック条約本文の草案であるゼロドラフト(*1)が公開されました。ゼロドラフトでは、海洋環境を含むプラスチック汚染から人間の健康と環境を守ること(または、海洋環境を含むプラスチック汚染をなくし、人間の健康と環境を守ること)を目的として、一次プラスチックポリマーの生産制限、懸念のある化学物質・ポリマー、問題のあるプラスチック製品(使い捨てプラスチック製品や意図的に添加されたマイクロプラスチック)の規制などの政策オプションを盛り込んでいます。
このような世界的なプラスチック規制の潮流の中で、わが国におけるプラスチック規制のこれまでの経緯と現状について取り上げてみたいと思います。
日本では、1960~70年代の高度経済成長期に伴う急速な工業化の中で、プラスチック製品の普及が進み大量に廃棄されてきました。多くのプラスチックは、埋め立て処理ではなく焼却処分されましたが、焼却の際にばいじんや酸性ガス等を排出し、大気汚染や公害を引き起こす一因となりました。このような背景から、廃棄物の適正処理を目的として、1970年に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)(*2)が制定され、分別収集が促進されることになりました。
1991年の廃棄物処理法改正では、廃棄物の排出抑制と分別・再生(再資源化)が法律の目的に加わり、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組みを総合的に促進するために、同年に「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効利用促進法)(*3)が制定されました。その後、循環型経済の形成として、再生利用を一層推進していくために個別のリサイクル法が次々と制定されていくこととなります。
中でも容器包装廃棄物は、家庭から排出されるごみの重量の約2~3割、容積で約6割を占めていながら、リサイクルがほとんど実施されていないという背景から、1995年に「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(容器包装リサイクル法)(*4)が制定され、市町村だけでなく、消費者、生産者を含む新しい仕組みが整備されました。容器包装リサイクル法は、事業者に再商品化の義務を課した日本で初めて拡大生産者責任の考えを取り入れたものとなりました。
規制の結果、2000年前後には約1,000万トンだった廃プラスチック総排出量は、2021年には824万トンまで削減されてきており、このうちの87%に当たる717万トンが有効利用されています(*5)。その内訳は、マテリアルリサイクル21%、ケミカルリサイクル4%、サーマルリサイクル(エネルギー回収)62%となっています。
その一方で、国連環境計画(UNEP)が2018年6月に発表した報告書では、1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量(2014年時点)は、米国に次いで日本が世界で2番目に多いことを示されています(*6)。
このような背景や世界的なプラスチック規制の潮流の中で、2018年5月に「3R+Renewable」(3Rの徹底と再生可能資源への代替)を基本原則とした「プラスチック資源循環戦略」が策定され、持続可能な循環型社会の構築に向けたマイルストーンが設定されました(*7)。マイルストーン達成に向けた具体的施策のひとつとして、2020年7月から開始されたレジ袋有料化は記憶に新しいところです。
さらに、2022年4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック資源循環法)(*8)が制定され、プラスチック製品の設計・製造から排出・回収・リサイクルに至るまで、プラスチック製品のライフサイクル全般に関わる事業者、自治体、消費者全体で取り組む内容が規定されました。事業者による取り組みとしては、プラスチック使用量の削減、リサイクルしやすい製品の開発、バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックなどの利用促進などが挙げられ、自治体の取り組みとしては、廃プラスチック製品の分別基準策定、分別基準の住民への周知などが挙げられます。消費者に対してはメディア等を通じて「えらんで、減らして、リサイクル」をキーワードに積極的な協力を呼び掛けています(*9)。持続可能な循環型社会を実現するために、プラスチックを製造し使用する我々の意識や行動を見直すことが日本のプラスチック規制の狙いと言えると思います。
引用先
(*1) プラスチック条約本文の草案(ゼロドラフト)
https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/43239/ZERODRAFT.pdf
(*2) 廃棄物処理法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000137
(*3) 資源有効利用促進法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000048
(*4) 容器包装リサイクル法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=407AC0000000112
(*5) 一般社団法人プラスチック循環利用協会
https://www.pwmi.or.jp/column/column-790/
(*6) Single-Use Plastics: A Roadmap for Sustainability
https://www.unep.org/ietc/ja/node/53
(*7) プラスチック資源循環戦略
https://www.env.go.jp/press/files/jp/111747.pdf
(*8) プラスチック資源循環法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=503AC0000000060
(*9) プラスチック資源循環(環境省HP)
https://plastic-circulation.env.go.jp/
(一社)東京環境経営研究所)
(2024年1月)