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欧州重要原材料法とその背景

【1. 欧州重要原材料法とその背景】
1.はじめに:
 欧州資源循環政策の一環として、欧州重要原材料法(CRMA)(EU)2014/1252)*1が、今年5月に公布された(発効5/23)。本法では、将来的な需要・供給リスク観点から、産業上の重要原材料(CRM)と戦略原材料(SRM)を選定し、2030年目標として、戦略原材料消費量の少なくとも①10%を域内採掘 ②40%の中間加工(精製・部品) ③25%をリサイクル原料 とし、「特定の国からの輸入を65%を超えない事」を掲げている。ここでは重要原材料法制定にあたり、当局及びJRC(Joint research council)が公表したレポートについて紹介する。

2.EU委員会による重要原材料(CRM)報告*2
 EUでは2011年から3年毎にCRMの選定を実施している。2011年には41物質の評価を行い、14物質を選定している。その後、評価対象物質も増え、2023年版では87物質を評価し、CRMとして34物質、うち特に重要な17物質を戦略原材料(SRM)とした。 報告書では、希土類元素、白金族元素、コバルト、マンガン、タンタル、ニオブ、パラジウム、ストロンチウム、リチウム、ホウ素等の51物質について供給と需要を評価している。現時点、中国が10物質の供給を独占し、24物質のトップシェアを示す。これら物質には、希土類元素、天然黒鉛、ヒ素、蛍石、ビスマス、タングステン、バナジウムなどが含まれている。他元素では、南アが白金族、コンゴ民主共和国がコバルト、タンタルの最大供給国である。
 2020年の全世界需要をベースに、2030、2050年の需要予測を実施。2050年予測で2020年の10倍以上の需要が見込まれる物質は、黒鉛、白金、リチウム、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、ネオジム、ジプロシウムである。黒鉛は電池、燃料電池、耐火材用途。白金は触媒、燃料電池、電子部品用途。リチウムは電池、金属工業用途。ニッケルは電池、製鋼用途。コバルトは電池、金属工業、触媒、磁石用途とされている。ネオジムとジスプロシウムは永久磁石用途であり、本法でも「表示」や「リサイクル」について規定されている。
 報告書では、各物質のリサイクル現状についても触れられているが、 銅(電線)、タングステン(超硬工具)、アルミニウム(建築、飲料容器等)、アンチモン(活字)等の現時点でインフラが構築されたもの以外は今後、回収インフラ等の整備が課題である。

3.永久磁石中の希土類に関するサプライチェン報告*3
 重要原材料の中では「永久磁石中の希土類」の扱いが具体的に定められている。永久磁石については、ネオジム磁石の発明で、従来のフェライト磁石の10倍程度の磁力を発現でき、モータ等の小型化が進められている。ネオジム磁石の組成はNd2Fe14B合金である。主要構成元素は、ネオジムと鉄である。両元素とも錆びやすく使用時には、表面処理が必要である。また高温下で保磁力が低下するため、ジスプロシウム(Dy)を数%添加する。現在、中国が磁石合金の約9割を生産している。添加材であるジスプロシウムも、中国での生産に依存している。ネオジム磁石のサプライチェンについては、上流部分において、中国のシェアが高くなっている。
 永久磁石は、医療用MRI、電動車駆動モータ、家電製品(洗濯機、乾燥機、冷蔵庫、エアコン、掃除機等)、情報機器(ハードドライブ)、産業用ロボット等非常に幅広い分野で使用されており、今後、需要の増加が見込まれる。報告書では、①供給元の多様化 ②欧州域内での製造プロセス取り込み ③使用済み製品のリサイクル ④設計段階でのリサイクル材使用 ⑤原料精製プロセス等への研究投資 を提言している。

4.欧州重要原材料法について
欧州重要原材料法は、5月3日に官報公示され5月23日に発効した。法規は2023年3月に欧州委員会から提案され、11月に三者合意を経て、成立した。本法は本文49条と5つの付属書から構成されている。ここでは、概要と永久磁石に関する部分を紹介する。
 本法の狙いは、1条に規定された3項目である。
①特定国への過度な原材料供給依存の回避と対応施策 
②当局による市場監視と産業界のリスク低減 
③循環性の向上と使用製品の域内自由移動の保証 また、3,4条に重要原材料(CRM)と、特に重要な物質を戦略原材料(SRM)として選定・見直しのルールが規定された。今回、CRMとして34物質、その中でSRMとして17物質を選定している(付属書Ⅰ,Ⅱ)。SRMには、今後の産業に重要な、リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイト、磁石用希土類、白金族類等が選定された。戦略原材料については、2030年までの目標として、域内消費量の少なくとも、
①10%を採掘(域内、域外共同開発) ②40%の中間処理能力(精製、部品化)②リサイクル材を25% とするとしている。また特定の国への供給依存を65%を超えない事と定められた。これら目標を達成するために、域内外で資源開発を推進する「戦略プロジェクト」に関する規定(6-19条)や原材料の国際市場モニタリングと域内備蓄(20~23条)、特定製品を域内で製造する事業者のサプライチェン全体にわたるリスクアセスメント義務(24条)、戦略原材料の共同購入(25条)と加盟国に対し、循環性を推進し廃棄物からの回収に関する規定(26,27条)が定められた。
 本法の中で、製品に関わる具体的規定として、永久磁石の循環性、リサイクルについて定められ(28,29条)、今後、他の製品の循環性に関する要求の雛形になる可能性がある。現時点で施行細則は定められていないが、医療用MRI、産業ロボット、自動車(自動車については審議中のELV規則案と重複する部分があり今後調整)、各種家電・情報機器機、ヒートポンプ等に使用される、永久磁石に関し①ラベル ②製品・製造者・取り外しに関する詳細情報提供(DPP:Digital Product Passportに含めても可)が求められる。29条で将来的に磁石に使用している原材料のリサイクル目標が設定される。本条項は、域外からの製品についても対象としていることに注意が必要である。
 今後の検討項目として、重要原材料の持続性に関する「認証」制度(30条、付属書IV)や環境フットプリント宣言(31条、付属書V)に関する規定も定められた。
 また、法制度に関する細則検討、施行推進を担う機関として、欧州重要原材料委員会(35,36条)の創設も規定された。

5.最後に
 欧州では、循環型経済構築を目指し、法制度の整備が進められている。今回取り上げた「重要原材料法」も、循環型経済構築を目指すために、特定資源の域内確保のため制定されたものである。製品の循環性を求める、ESPR規則*4(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)や、公共調達基準であるGPP*5(Green Public Procurement Criteria and Requirement)等の改定を含め動向に留意する必要がある。

(本報は、弊会発行「環境管理誌 10,11月号」記事の要約である)
*1)  Critical Raw Material Regulation (EU) 2024/1252 ; 
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L_202401252
*2) Study on the Critical Raw Materials for the EU 2023
https://ec.europa.eu/newsroom/cipr/items/787007/en
*3) JRC report“Supply chain analysis and material demand forecast in
strategic technologies and sectors in the EU 
https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC132889
*4) ESPR Regulation (EU) 2024/1781;
Regulation - EU - 2024/1781 - EN - EUR-Lex
(eurohttps://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32024R1781&qid=1719580391746pa.eu)
*5)  Green Public Procurement Criteria and Requirements
https://green-business.ec.europa.eu/green-public-procurement/gpp-criteria-and-requirements_en#:~:text=Green%20Public%20Procurement%20Criteria%20and%20Requirements%20Common%20EU,to%20reduce%20the%20environmental%20impact%20of%20a%20purchase

(2024年11月)
 

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