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電池規則の背景の新循環型経済行動計画とは

【1.電池規則の背景の新循環型経済行動計画とは】
1.    欧州グリーンディールの重要な役割を担う新循環型経済行動計画
2020年12月10日に発表されたEUの電池規則案(*1)では、EU域内に上市される電池が、ライフサイクル全体を通して、持続可能、高性能、かつ、安全であることが求められていますが、この背景にあるEUの新循環型経済行動計画は、2020年3月11日、欧州委員会により採択されています(*2)。この行動計画は、経済、消費者、市民、市民社会組織との共創の中で、よりクリーンで競争力のある欧州を実現するためのものであり、2015年12月に採択された最初の循環型経済行動計画の内容を基礎としつつ、欧州グリーンディールが求める、気候や環境に関する課題をチャンスに変えEU経済を持続可能なものにするための変革を加速するものです(*3)。
2015年の最初の循環型経済型行動計画(*4)では、”Closing the loop”という表現が使われ、リサイクルや再利用を促進することで製品ライフサイクルの「ループを閉じる」ことが目指されました。循環型経済の実現により、環境と経済の両方に利益がもたらされ、また、資源不足や価格変動の解消、新たなビジネスチャンスの創出、革新的でより効率的な生産・消費方法の創造などによりEUの競争力を高めることができると考えられています。その実施内容および結果については、「循環型経済行動計画の実施に関する報告書」(*5)に詳述されていますが、雇用率の向上、リサイクル率の向上、新規ビジネス機会の創出などの一定の成果があり、採択から3年で完了となりました。
2020年3月に採択された新循環型経済行動計画は、欧州グリーンディールに基づき、クリーンで循環型の経済を実現するために産業を活性化する行動計画として重要な役割を担っています。具体的には、持続可能な製品の設計、消費者およびパブリックバイヤーのエンパワーメント、生産プロセスにおける循環性に関しての行動計画であり、エレクトロニクス・ICT、電池・自動車、包装、プラスチック、繊維、建設・建築、食品・水・栄養物などあらゆる製品分野を対象としています。また、廃棄物の削減や価値の向上への対応も求められています。

2.    新循環型経済行動計画に基づく新たな規制の動向
新循環型経済行動計画に基づいて最初に着手されたのは電池規則案ですが、それ以降も、新たな法令や既存の法令の見直しの検討が多く行われています(*6)。その一例を以下に挙げます。
2021年10月28日: 廃棄物中の残留性有機汚染物質に関する規則を更新する提案の採択
2021年11月17日: 廃棄物輸送に関する新しいルールに関する提案の採択
2022年3月30日: 持続可能な製品のためのエコデザイン規則に関する提案を含む持続可能な製品イニシアティブ、持続可能で循環型の繊維製品のためのEU戦略、建設資材規制の改正案、グリーン移行における消費者のエンパワーメントに関する提案の採択
2022年4月5日: 大規模産業施設からの汚染に対処するためのEU措置の改訂(産業排出指令の改正、欧州汚染物質排出・移動登録(E-PRTR)の改訂)案の採択
上記以外にも、EUにおける包装および包装廃棄物に関する要求事項の見直し、バイオベース・生分解性・堆肥化可能なプラスチックに関する新たな政策枠組み、マイクロプラスチック汚染が環境に与える影響を軽減するための措置なども検討されています。
また、2022年3月30日に公開された持続可能な製品のためのエコデザイン規則案(*7)は、食品・飼料・医薬品などを除いてあらゆる物理的な物品を対象とし、考慮すべきエコデザインの要件として、耐久性、再利用性、修復性、カーボンフットプリントなどの14項目が挙げられています。デジタル製品パスポート(Digital Products Passport)と呼ばれる、サプライチェーンおよび消費者と透明性の高い効率的な情報伝達を実現する新たな仕組みも提案されています。今後、あらゆる産業分野において、製品設計の段階で、エコデザインの要件を考慮に入れることが求められるようになるでしょう。

3.    電池規則の検討状況
新循環型経済行動計画において、持続可能な電池と自動車は、未来のモビリティを支えるものとして捉えられています。循環型経済の実現には、電池の循環的可能性の向上だけではなく、電動モビリティのための新たな電池バリューチェーンの持続可能性の強化も重要であり、電池規則案の検討においては以下の点が考慮されています。
- すべての電池の回収率とリサイクル率を向上させ、貴重な材料の回収を確保し、消費者にガイダンスを提供するための再生材料に関するルールと措置
- 非充電式電池については、代替品が存在する場合は段階的な使用廃止による対応
- 電池製造の二酸化炭素排出量、原材料の倫理的調達、供給の安定性、再使用、再利用、リサイクルの促進などを考慮した電池の持続可能性と透明性の要件
電池規則は2020年12月10日に規則案が欧州委員会に採択されたのち、欧州経済社会評議会により電池の持続可能性要件に関する意見がまとめられました。電池規則案は、通常の立法手続きにより欧州議会および理事会で審議されています。2022年7月20日現在、第1読会の段階にあり、2022年3月10日に欧州議会による電池規則案への改訂が採択されています(*8)。この改訂には、規定内容を明確にするための文言の修正や追加に加え、電池バリューチェンのデューディリジェンス、ガバナンスや透明性の向上などについての追記、リサイクル率の修正など多くの変更が含まれています(*9)。

4.    まとめ
新循環型経済行動計画では、循環型経済が人々、地域、都市のために機能し、気候変動に貢献するとともに、研究、イノベーション、デジタル化の可能性を活用することが求められています。製品寿命の延長や、リサイクル、廃棄物の削減などが着目されがちですが、循環型経済の実現を通して、気候および地球環境に関する課題への貢献だけでなく、人々や地域社会がより良い方向に進むことが重要であると考えられています。また、2030年の持続可能な開発目標(SDGs)達成の一助となることも期待されています。

引用先
*1: https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_2312
*2: https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_420
*3: https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1583933814386&uri=COM:2020:98:FIN
*4: https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52015DC0614
*5: https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1551871195772&uri=CELEX:52019DC0190
*6: https://environment.ec.europa.eu/strategy/circular-economy-action-plan_en
*7: https://ec.europa.eu/environment/publications/proposal-ecodesign-sustainable-products-regulation_en
*8: https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/HIS/?uri=COM:2020:798:FIN
*9: https://www.europarl.europa.eu/RegData/seance_pleniere/textes_adoptes/definitif/2022/03-10/0077/P9_TA(2022)0077_EN.pdf

(一社)東京環境経営研究所)
 

​(2022年8月)​
 

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